「モノグラフ」第20号ができました(2015.12.28)

2015.12.28

「モノグラフ」第20号=「基礎研究篇」Ⅸができ上がりました。これには森章司と金子芳夫の【論文26】「原始仏教時代の通商・遊行ルート」が掲載されています。

「はじめに」と「目次」をそのまま転記しておきます。

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 はじめに

 この「モノグラフ」もとうとう記念すべき第20号を発行する運びとなりました。

 いつもはこの「はじめに」を執筆するのは、私たち釈尊伝研究会の代表者である森章司なのですが、この度はこの記念すべき号に研究会メンバー全員が何かしらの形で寄稿しようということになりました。本体の論文は森章司と金子芳夫の共著になります。本澤綱夫は巻末に掲載されますモノグラフの既刊号目録の「発行年月順(一覧)」とともに「著者別(一覧)」「語句索引」を、石井照彦はこの研究に掲載した地図のすべてを作成いたしました。そしてわたし岩井昌悟がこの「はじめに」を執筆しているという次第です。

 記念すべき号の「はじめに」を書かせていただく貴重な機会を頂戴しましたので、余所に書くことはまずないことを書かせていただこうと思います。
 私事になりますが、岩井はこの「原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究」にほとんど最初から参加しているメンバーのひとりです。参加したのは私が大学院生であったときですから、私の研究者としての成長はこの研究とともにあったといってまちがいありません。たくさんのことをこの研究が教えてくれました。
 もともとは仏伝文学や説話文献を中心に研究していた私に(本モノグラフの第3号がそのころの業績の一つです)、ニカーヤや阿含、律に嫌というほど親しむ機会をあたえてくれました。パーリのアッタカター類を扱うようになったのもこの研究がきっかけでした。
研究姿勢に関しても、先人の研究を鵜呑みにしてそれに乗っかってはいけないこと(つまり先人の研究はいつもできるかぎり検証対象でなければならない)、先入観は猛毒であること(先入観を完全に除き去ることは不可能ですが、意識的にできるかぎりそのように努める)などをここで知りました。

 原始仏教聖典資料を全体的に見ると、個々の経をばらばらに見ていたのでは見えないことが見えてきます。我々の立場とは相いれない立場に、聖典は最初は断片的であったものが、時代とともに何世代もかけて増幅し、聖典中のほとんどの情報が後代の産物であり、でっち上げであるという見方がありますが、全体を見渡した時に、確かにイレギュラーは存在しますが、釈尊の時代の出来事の時系列についての明確なイメージが背景になければ生じないであろう統一感があることがそれに対する反証として指摘できます。でっち上げでこのような統一感をもたせるのは至難の業と思われるのです。
 本号に掲載した論文のための研究会に参加している時も、聖典の背景には明確な地理感覚があることを実感することが出来ました。

 中央学術研究所の長きにわたるあたたかいご支援に衷心より感謝申し上げます。
(岩井昌悟)

  平成27年11月25日
     釈尊伝研究会代表 森 章司(東洋大学名誉教授 博士・文学)
                         会員 金子芳夫(中央学術研究所研究員 修士・文学)
                                 岩井昌悟(東洋大学准教授 博士・文学)
                                 本澤綱夫(東洋大学大学院修了 修士・文学)
                                 石井照彦(佼成図書文書館   修士・文学)

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 「原始仏教時代の通商・遊行ルート」目次

研究の目的と方法...... 007
  [1]直接的目的と間接的目的...... 007
  [2]本稿制作の方法と手順...... 009
  [3]凡例...... 012
  [4]本稿の執筆担当者...... 013

【1】通商・遊行ルートを想定するための基準地点とその位置確定...... 015
  はじめに...... 015
  [1]アーラヴィー(ĀḷavI)...... 017
  [2]アーパナ(Āpaṇa)...... 018
  [3]バーラーナシー(BārāṇasI)...... 018
  [4]バッディヤ(Bhaddiya)...... 019
  [5]バールカッチャ(Bhārukaccha)...... 020
  [6]ボーガ城(Bhoganagara)...... 021
  [7]チャンパー(Campā)...... 021
  [8]ダッキナーギリ(Dakkhiṇāgiri)...... 022
  [9]デーヴァダハ(Devadaha)...... 023
  [10]ガヤー(Gayā)...... 024
  [11]ゴーダーヴァリー河(Godhāvarī nadī)...... 025
  [12]カジャンガラ(Kajaṅgala)...... 026
  [13]カンナクッジャ(Kaṇṇakujja)...... 027
  [14]カピラヴァットゥ(Kapilavatthu)...... 027
  [15]コーサンビー(Kosambī)...... 029
  [16]クシナーラー(Kusinārā)...... 030
  [17]ルンビニー(Lumbinī)...... 031
  [18]マドゥラー(Madhurā)...... 031
  [19]マーヒッサティ(Māhissati)...... 032
  [20]マンクラ山(Maṅkulapabbata)...... 033
  [21]ミティラー(Mithilā)...... 034
  [22]ナーランダー(Nālandā)...... 034
  [23]パータリ村(Pāṭaligāma)...... 035
  [24]パティッターナ(Patiṭṭhāna)...... 035
  [25]パーヴァー(Pāvā)...... 036
  [26]パーヴァープリー(Pāvāpurī)...... 037
  [27]パヤーガパティッターナ(Payāgapatiṭṭhāna)...... 037
  [28]プンナヴァッダナ(Puṇṇavaddhana)...... 039
  [29]ラージャガハ(Rājagaha)...... 040
  [30]サーガラ(Sāgala)...... 041
  [31]サーケータ(Sāketa)...... 042
  [32]サンカッサ(Saṅkassa)...... 043
  [33]サーヴァッティー(Sāvatthī)...... 044
  [34]スッパーラカ(Suppāraka)...... 045
  [35]タッカシラー(Takkasilā)...... 046
  [36]トゥーナ(ThūNa)...... 047
  [37]ウッジェーニー(Ujjenī)...... 047
  [38]ウルヴェーラー(Uruvelā)...... 048
  [39]ヴェーディサ(Vedisa)...... 049
  [40]ヴェーランジャー(Verañjā)...... 050
  [41]ヴェーサーリー(Vesālī)...... 051
  [42]基準地点の分類...... 052

【2】原始仏教聖典に記された通商・遊行ルートの「基礎データ」...... 055
  はじめに...... 055
  [1]基準地を 1 点しか含まない通商遊行ルートのデータ ...... 059
  [2]基準地を2点含む通商遊行ルートのデータ...... 105
  [3]基準地を3点含む通商遊行ルートのデータ...... 140
  [4]基準地を4点含む通商遊行ルートのデータ...... 158
  [5]基準地を5点含む通商遊行ルートのデータ...... 162
  [6]基準地を6点含む通商遊行ルートのデータ...... 163
  [7]基準地を7点含む通商遊行ルートのデータ...... 165
  [8]基準地を8点含む通商遊行ルートのデータ...... 166
  [9]基準地を14点含む通商遊行ルートのデータ...... 167
  [10]基準地を含まない通商遊行ルートのデータ...... 167

【3】基礎データをもとに加工した「直近2基準地点間」資料---【地図Ⅰ】と【地図Ⅱ】---...... 177
  はじめに...... 177
  [1]「直近2基準地点間」資料一覧...... 179
  [2]【地図Ⅰ】と【地図Ⅱ】...... 203

【4】通商・遊行路を想定するにあたっての基礎的要件...... 207
  [1]本稿で取り上げるインド古代の文献...... 207
  [2]交通手段...... 208
  [3]幅員...... 212
  [4]舗装...... 215
  [5]環境...... 216
  [6]付帯する設備...... 218
  [7]通行の安全...... 218
  [8]軍事的要素...... 220
  [9]水上交通路...... 221
  まとめ...... 225

【5】通商・遊行路を想定するにあたっての具体的要件...... 229
  [1]地理的要件...... 229
  [2]原始仏教時代の大都市...... 231
  [3]道路と国境...... 233
  [4]現代のルートを参照できるか...... 234
  [5]都市の盛衰...... 235
  [6]通商と遊行...... 236
  [7]水上交通...... 236
  まとめ...... 238

【6】原始仏教聖典に記されたルート①---南道と北道---...... 239
  [1]'dakkhiṇāpatha'と'uttarāpatha'...... 239
  [2]'dakkhiṇāpatha'と'uttarāpatha'の使用例...... 240
  [3]'dakkhiṇāpatha'と'uttarāpatha'が意味するもの...... 246
  [4]'dakkhiṇāpatha'と'uttarāpatha'が示す地域...... 248

【7】原始仏教聖典に記されたルート②---中国と辺国---...... 251
  [1]「律蔵」に規定された中国と辺国...... 251
  [2]中国と辺国をきめる中心点...... 256
  [3]辺国の地点は現在のどこに比定されるか...... 257
  [4]「経蔵」における中国と辺国...... 262

【8】インド古典に記されたルート...... 269
  [1]『インド誌』の記すルート...... 269
  [2]『実利論』の記すルート...... 270
  [3]中国求法僧の旅ルート...... 271

【9】「原始仏教時代の通商・遊行ルート」地図の想定---【地図Ⅲ】---...... 273
  [1]Ganga河の渡河地点...... 273
  [2]【地図Ⅱ】の検討...... 276
  [3]辺国のルート...... 280
  [4]【地図Ⅲ】...... 282

【10】想定してみた通商・遊行ルート【地図Ⅲ】の検証---【完成地図】---...... 283
  [1]仏教聖典を資料とすること...... 283
  [2]通商路と遊行路...... 286
  [3]ルートの具体的検証...... 287
  [4]SāvatthīとRājagahaを結ぶルート...... 288
  [5]交通の要衝...... 290
  [6]Gandak河上流左岸ルートはあったか---菩薩の出家ルート...... 291
  [7]Yamuna河沿いのルート...... 305
  [8]【完成地図】...... 306
  [9]法顕・玄奘の求法の旅ルートによる検証...... 307

まとめに代えて...... 309
  [1]釈尊と仏弟子たちの活動範囲...... 309
  [2]原始仏教時代のタイム・スパン...... 313

裏表紙ポケット
    【地図Ⅱ】-① 【地図Ⅱ】-② 【地図Ⅲ】-② 【完成地図】-① 【完成地図】-②