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摩訶迦葉 半座 マンダートリ ニミ王 転輪王 帝釈天 見法塔品 マハーバーラタ アルジュナ


 本論文は【論文8】「摩訶迦葉(Mahākassapa)の研究」の補足的研究として、摩訶迦葉が釈尊から半座を分かたれたという伝承がどのような意味を有しているかを調査したものである。
 まず誰々が誰々に「半座を分かつ」という記事が、釈尊と摩訶迦葉との間に限定されず、帝釈天から半座を提供されたMāndhātṛ、Nimi(またはNemiya)王、Mahābhārataの英雄アルジュナなど、ひろく非仏教文献にも存し、また仏教文献には『妙法蓮華経』「見寶塔品」に見られる宝塔中の多宝如来が釈迦牟尼仏に半座を分かって二仏が共坐したという記述や、『仏本行集経』(大正03 p.757上)には釈尊がいまだ菩薩であった時にその下で修行をしたアーラーラ・カーラーマが、菩薩に「半座」を分与して弟子たちを2人で教導することを申し出たという記述などがあることを調査し、これによってインドの古典における「半座を分かつ」という行為の意味づけを明らかにして、そこから釈尊が摩訶迦葉に半座を分かったという伝承の意味合いを探り、摩訶迦葉の教団内における位置づけを確定することに寄与することをねらった。
 その結果、「半座を分かつ」という行為が行われる条件としては、半座を分かつ者と分かたれる者とが、・容姿が等しく、・同等の権限・地位を共有しており、・能力も等しくなければならないということが明らかになり、この3つの条件を釈尊と摩訶迦葉との関係も満たしていることを、諸資料の記述を通して確認した。
 また摩訶迦葉が半座を分かたれる記事は漢訳経典には数多く存するにもかかわらず、パーリ文献には見られない。北伝と南伝とで摩訶迦葉の教団内における位置づけに差異が存在した(北伝伝承が南伝伝承よりも摩訶迦葉を重視していた)といったことも予想されるが、このことについては南伝においてもアッタカターで摩訶迦葉が「ブッダに似た者」と呼ばれており、この呼称が「半座」が含意するものを一語で表現しているため、そのような見解が妥当ではないことを明らかにした。