原始仏教と大乗仏教と釈迦仏教

 仏教には大きく分けて2つの系統があります。1つは歴史上に実在した釈迦牟尼仏の説かれた教えを信奉する系統で、もう1つは釈迦牟尼仏が亡くなってから500年ほどして作られた『般若経』『法華経』『無量寿経』『華厳経』などの「大乗」を標榜する経典を信奉する系統で、こちらの方は「大乗仏教」と呼ばれています。これらの経典の主人公は阿弥陀仏や毘盧遮那仏あるい久遠実成の釈迦牟尼仏、あるいはさまざまな菩薩で、形式上は釈迦牟尼仏が説かれたことになっていますが、史実としては認められません。
 「原始仏教」は、前者の釈迦牟尼仏の説かれた教えを信奉する系統のもっとも古い時代の仏教をいいます。お釈迦さまとその直弟子の時代といってよいでしょう。またもう少し後の教学研究が盛んになって、たくさんの学派が生まれた時代の仏教を「部派仏教」と呼びます。あるいは原始仏教と部派仏教を併せて「初期仏教」と呼ぶこともあります。
 この系統の教えは後に中国や日本などの東北アジアにも伝わりましたが、大乗仏教が盛んになってからはあまり省みられなくなりました。奈良時代に成立した律宗とか倶舎宗というのはこの系統の仏教です。しかしスリランカやミャンマー(ビルマ)、タイ、カンボジア、ラオスなどの東南アジアでは、現在でもこの系統の仏教が盛んで、これらは「南方仏教」「上座(テーラワーダ)仏教」などと呼ばれています。この東南アジアで行われている仏教は「分別説部」という学派に属しますが、「上座」というのはこの学派の大元であった「上座部」からきたものです。
 以前は「大乗仏教」に対して、この系統の仏教を総称して「小乗仏教」と呼んでいました。しかし小乗とは「劣った教え」「卑しい教え」という意味で、大乗仏教から投げつけられた蔑称ですから、この言葉を使うことは失礼にあたります。そこでこの系統の仏教は「原始仏教」とか「初期仏教」とか、あるいは「南方仏教」とか「上座仏教」と呼ばれるようになりました。しかし原始仏教や初期仏教はこの系統の仏教の早い時期の呼称であって、現在東南アジアで行われている仏教を呼ぶにはふさわしくありません。だからといって「南方仏教」や「上座仏教」ではもっとも古い時代の仏教や中国や日本に伝わったこの系統の仏教をカバーできません。
 そこで私たちのグループでは、これを「釈迦仏教」と呼ぶことにしています。これは文字通り「お釈迦さまの説かれた教え」という意味で、過去の古い時代の仏教も、大乗仏教以外の中国・日本に伝わったこの系統の仏教も、現代の東南アジアの仏教も含ませることができます。
 私たちのこの研究は、この系統の「原始仏教」時代に属するもっとも古い聖典を中心に、中国や日本などの東北アジアや、スリランカやタイなどの東南アジアに伝わったこの系統の仏教において制作された文献、すなわち「釈迦仏教」に属するすべての文献を使って、この仏教の中心におられる歴史上のお釈迦さまの生涯とそのサンガのありさまを明らかにしようとしているわけです。



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